認知症による徘徊。その原因と対応(介護)のポイント
認知症でよくみられる行動について、特徴・原因・一般的な対策を症状ごとに紹介します。
認知症の方が絶えず歩き回る行為は、家の中でも外でも見受けられます。このような行為は、記憶機能や見当識機能などの障害が基になって起きる「BPSD(行動・心理症状)」であると考えられます。このような場合、行動を無理に抑えつけるのではなく、徘徊に至る動機を理解した対応(環境づくり)を心がけることが症状緩和のポイントとなります。
<もくじ>
●徘徊が起きる原因と基本的な対応
●徘徊への対応策(介護のポイント)
●徘徊などの認知症で困ったらここに連絡(相談先)
●認知症の予防や改善に大切なのはコミュニケーション
●まとめ
介護は一人で抱え込まない。介護付きホーム(介護付有料老人ホーム)、デイサービス、ショートステイを提供するアズハイム。
多職種でしっかり対応してまいります。
徘徊が起きる原因と基本的な対応
認知症になると、記憶機能や見当識機能、実行機能、認知機能などに障害が起きます。これらは「中核症状」と呼ばれ、もの忘れや判断力の低下などを招きます。また、中核症状が基になり「BPSD(行動・心理症状)」という周辺症状が発症することがあります。
BPSDが発症すると、徘徊、幻覚や妄想、暴言や暴力、うつなどの症状があらわれることがあります。一般的に、徘徊はBPSDであることが多いのですが、それでも「本人にはしっかりとした理由(動機)」が存在しています。
そこで、徘徊への対応で何より大切なのは「傾聴」と「観察」となります。まずは、本人の訴えに耳を傾け、その背後にある理由や感情を理解することが大切です。単に行動を抑えつけるような対応は、症状の悪化につながる可能性があるため注意が必要です。
このような理解と対応は、本人だけでなく家族のストレスを軽減し、「生活の質(QOL~Quality of Life)」の向上にもつながることから、介護者の負担軽減にも繋がります。
そこで、次からは徘徊が起きる原因を紹介します。
なお、BPSDは人間関係や環境におけるストレスの高まりが発症の引き金となることから、すべての方に発症するわけではありません。
徘徊の原因.1「今いる場所が分からなくなる」
自分が今どこにいるのか認識できなくなると不安と混乱に陥ります。これが屋外への徘徊につながり迷子へ至ります。また、徘徊は屋外だけの問題ではありません。トイレの場所が分からなくなることで、家の中を歩き回ることも徘徊ととらえます。
徘徊の原因.2「物を置いた場所が分からなくなる」
認知症の方は、財布や眼鏡など日常的に使用する物を置いた場所を忘れ探し続けることがあります。これは、一般的なもの忘れではなく記憶障害が原因の症状です。この状態が長く続くことで本人の不安が増すと、家の外へ行動範囲を広げることがあります。
徘徊の原因.3「不安になる」
外出先や転居先など、慣れない環境に身を置くことでストレスが増し、安心できる居場所を求めて屋外へ出てしまうことがあります。
徘徊の原因.4「過去の習慣がよみがえる」
認知症の方は、かつての習慣や行動パターンが突然よみがえることがあります。例えば、毎朝定時に散歩に出かけたり、仕事に行く準備を始めたりするなど、過去のルーチンが現在に再現されます。これが徘徊の原因になることがあります。
徘徊の原因.5「前頭側頭型認知症の影響」
前頭側頭型認知症は、前頭葉や側頭葉の委縮が原因で起こる認知症の一つです。この症状には「常同行動」という特徴的な行動が見られます。常同行動とは、毎日同じ時間に同じ行動をくり返す行動(ルーチン)のことです。
このようなルーチンは、本人にとって一種の安定をもたらすものですが、家族は注意を払わなければなりません。例えば、大雨のような悪天候の中でも、本人が屋外で同じ行動をくり返そうとすると、安全を脅かす事態にもなりかねません。
また、常同行動には「同じ物を同じ時間に毎日食べる」という食習慣も含まれます。このような場合は、本人の体調や健康面に配慮する必要があり、栄養バランスや生活リズムを崩さないように管理することが重要です。
徘徊への対応策(介護のポイント)
徘徊は、事故などの生命を脅かす行動の一つであることから、介護では特に注意する必要があります。そこで、ここでは代表的な対応策を紹介します。介護に当たっては、本人の訴えに耳を傾け、感情や行動パターンを理解し、その上で徘徊しにくい環境をつくり上げていくことが大切です。また、同時に徘徊が起きた場合の対策も考えておきましょう。
徘徊への対応策.1「家の中に居場所をつくる」
家の中に居場所をつくることは、屋外への徘徊を減らす有効的な手段の一つです。
趣味などを楽しむ場所をつくることで、本人は「ここにいる理由」を感じ、安定した環境の中で時間を過ごすことができます。また、家事を手伝ってもらうと、「家の中で必要とされている」という前向きな意識が生まれ、これが安定した居場所につながります。さらに、お手伝いをしてもらったときは、必ず本人に「ありがとう」という感謝の言葉を伝えましょう。これにより、本人の自尊心が高められ、さらに居場所への帰属意識が高まります。
居場所は、本人にとって楽しい場所であり、周囲から必要とされている場所であることが望ましく、徘徊の原因となる焦燥感や不安を抑えることにつながります。
徘徊への対応策.2「適度な運動と生活リズム」
適度な運動は、徘徊を減らす有効的な手段の一つです。
運動により、適度な疲労を感じてもらうことで徘徊する衝動を自然と抑えることができます。また、毎日決まった時間に起床し、食事を取り、就寝するなど規則正しい生活リズムの維持も改善につながります。
徘徊への対応策.3「目印や貼り紙などで教えてあげる」
認知症の方が家の中を徘徊する要因の一つに、家の中の特定の場所を忘れてしまうということがあげられます。このような場合、壁やドアに目印や貼り紙をして対応します。例えば、トイレの場所を忘れやすい場合は、トイレと書いた紙をドアに貼ることが本人の助けになり改善につながります。また、このような対策は、トイレだけでなく他の場所にも応用できます。例えば、キッチンや寝室、リビングなどに名前を書いた紙を貼ることで、本人が容易に目的の場所を見つけられるようにします。
さらに、徘徊によるけがのリスクを下げるため、家具や物の配置にも注意しましょう。ぶつかったり、つまずいたりするような家具や物は撤去し、できれば段差も解消しましょう。
徘徊への対応策.4「ドアベルや玄関センサーをつける」
認知症の方が気づかないうちに外に出てしまうことは、特に事故などのリスクを高めます。
このような状況に対応するためには、ドアベルや玄関センサーの設置が効果的です。ドアベルや玄関センサーを玄関に設置し、本人が通過するとアラームや通知を発するようにします。これにより、本人が家から出た瞬間に家族や介護者がそれを察知し、迅速に対応することができます。
徘徊への対応策.5「衣服などに名札をつけておく」
徘徊の備えとして、衣服や靴、サンダルなどに名札をつけておくことも大切です。
この名札には本人の名前や連絡先を記載します。本人に配慮し、名札は衣類の内側につけますが、必要なときにはすぐに確認できる場所に付けましょう。
また、小型のGPS端末を靴やサンダルなどに取り付けておくことも対策の一つになります。これにより、本人がどこにいるかをスマホで確認することができます。
徘徊への対応策.6「警察や地域包括支援センターへ届ける」
認知症の方が行方不明になった場合は、ちゅう躇することなく迅速に、然るべき機関へ届け出を行ってください。
例えば、東京都では、認知症の親族が行方不明になった際は、「必ず警察へ届ける」ことが強く推奨されています。迅速な対応が本人の安全を守るために非常に重要だからです。
また、本人が住んでいる地域の地域包括支援センターへの届け出も効果的です。東京都の場合、地域包括支援センターに届けると、都内の他の区市町村や近隣の各県へ一斉に周知する取り組みが行われます。
行方不明となった場合には、何よりも早期発見を心がけることが重要で、これにより事故や事件に巻き込まれるリスクを減らすことができます。
徘徊への対応策.7「様々なサービスを利用する」
認知症の方の徘徊に備えて、普段から行方不明になった際に利用できるサービスについて調べておくことが大切です。
例えば、愛知県内の一部の自治体では、メール配信システムが45、SOSネットワークが32、GPS位置情報検索が25、防災行政無線放送が21の自治体で導入されています。
メール配信システムは、行方不明になった際に、地域の捜索協力者へ情報をメールで配信するシステムです。これにより、迅速かつ広範囲にわたる捜索が可能となります。また、SOSネットワークは、地域のコンビニやタクシー会社などの事業者が捜索に協力するシステムです。
これらのサービスの利用には事前の登録が必要なので事前に必要な手続きを行っておきましょう。
徘徊などの認知症で困ったらここに連絡(相談先)
認知症と一言でいっても、「アルツハイマー型認知症」や「レビー小体型認知症」など、認知症のタイプによってBPSDの症状や対応も異なります。
そこで、徘徊がはじまったり、症状が悪化した際には、ケアマネージャーなどの専門家や専門機関へ相談し適切な指導を受けましょう。正しい対応を早期に行うことは、認知症自体の進行を遅らせることや、症状の軽減に効果的で、さらには認知症の方だけではなく家族の「生活の質(QOL)」の向上にもつながります。
そこで、認知症全般に関する主な相談先を紹介します。
(1)一般的な医療機関(かかりつけの医療機関)
(2)認知症専門外来や全国もの忘れ外来
(3)地域包括支援センター
まずは、一般的な医療機関やかかりつけの医療機関を尋ねてみましょう。
また、場合によっては認知症専門外来や「全国もの忘れ外来」を利用します。もの忘れ外来では、物忘れが自然な老化によるものか、病的なものかを診断し適切な治療を行います。
地域包括支援センターでは、高齢者やその支援者に対して、総合相談、介護予防ケアマネジメント、権利擁護、包括的・継続的ケアマネジメント支援などの幅広いサービスを提供しています。
介護の問題、健康面の悩み、金銭的な問題、虐待など、様々な相談に対応しています。高齢者本人や家族が、どのような小さな心配ごとでも相談できるよう、多様な専門スタッフが配置されています。
地域包括支援センターは、各市区町村に設置され、利用はほとんどの自治体で無料です。自治体のホームページなどで担当するセンターの情報を確認しましょう。
認知症の予防や改善に大切なのはコミュニケーション
認知症の予防や進行の遅延、さらには認知症を持つ高齢者と家族との良好な関係づくりには、コミュニケーションが大切です。それには、認知症への家族の深い理解と、高齢者が多様な交流の中で新しい刺激を受け、興味や関心を持つことが大切です。
家族との対話や共有される活動を通じて、認知症の高齢者は新たな視点や情報を得る機会を持ちます。これにより、認知的な刺激が促され、認知症の進行を遅らせる効果を期待することができます。また、こうした積極的な交流は、高齢者の「生活の質(QOL)」の向上にも効果的です。
さらに、デイサービスなどの外部施設を活用することも、認知症の高齢者の方には様々な刺激を受ける素晴らしいコミュニケーションの機会となります。このように、認知症の予防や改善には、家族の理解とサポート、多様な社会的交流の場が欠かせません。
まとめ
徘徊は、事故やケガなど様々なリスクをともなう認知症の症状であり、特に夜間に発生する場合、介護を行う家族にとっても大きな負担になります。認知症の方への対応では、寄り添った対応が大切になりますが、同時に一人(家族)だけで悩むのではなく、ケアマネージャーやその他の専門家、専門機関へ相談することも大切です。専門的なアドバイスやサポートを受けることで、適切な介護方法を学び、認知症の方との関係を良好に保つことができます。
また、介護者が日々の介護による強いストレスを感じている場合や自己嫌悪に陥っている場合、どのように対応してよいか分からない場合には、「離れる介護」も検討しましょう。この場合、デイサービスやショートステイなど、自宅以外の施設の利用を検討します。介護福祉士や認知症ケア指導管理士がいる介護施設であれば、安心して介護をお願いすることができます。
今回のコラムが、徘徊に関する理解を深めるきっかけとなり、認知症の高齢者とご家族が幸せに過ごす一助になれば幸いです。
【監修】
新井
アズハイムでホーム長やエリア長等現場経験を経て、現在はホームの入居相談を担当。
介護は一人で抱え込まない。介護付きホーム(介護付有料老人ホーム)、デイサービス、ショートステイを提供するアズハイム。
多職種でしっかり対応してまいります。
<参考文献>
とうきょう認知症ナビ「認知症高齢者等の行方不明・身元不明について」https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/zaishien/ninchishou_navi/torikumi/yukuefumei/
国立長寿医療研究センター資料
https://www.ncgg.go.jp/ncgg-kenkyu/documents/2019/19xx_37.pdf
神奈川県「神奈川県認知症等行方不明SOSネットワーク」
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/u6s/cnt/f6401/p711536.html#:~:text=%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E7%97%87%E7%AD%89%E3%81%A7%E8%A1%8C%E6%96%B9,%E3%81%8A%E9%A0%90%E3%81%8B%E3%82%8A%E3%81%99%E3%82%8B%E4%BB%95%E7%B5%84%E3%81%BF%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82