認知症の方が物を隠す行動(もの盗られ妄想など)の原因と対応
認知症でよくみられる行動について、特徴・原因・一般的な対策を症状ごとに紹介します。
認知症の方が物を隠したり、ものが盗まれたと訴えるのは、認知症の中核症状が基になってあらわれた「BPSD(行動・心理症状)」である可能性が高く、このような場合、本人の訴えに耳を傾けた対応を取ることで症状の軽減を図ります。また、このような対応は介護の負担軽減にもつながります。
<もくじ>
●認知症の方が物を隠す原因と理由
●認知症の方が下着を隠す原因・理由と対応方法
●「物を盗まれた」と訴える原因・理由と対応方法(もの盗られ妄想)
●物を隠したり、もの盗られ妄想などの認知症で困ったらここに連絡(相談先)
●認知症の予防や改善に大切なのはコミュニケーション
●まとめ
介護は一人で抱え込まない。介護付きホーム(介護付有料老人ホーム)、デイサービス、ショートステイを提供するアズハイム。
多職種でしっかり対応してまいります。
認知症の方が物を隠す原因と理由
認知症になると、記憶機能や見当識機能、実行機能、認知機能などに障害が生じ、もの忘れや判断力の低下などが見られるようになります。これらの症状は「中核症状」と呼ばれています。そして、中核症状が基になり「BPSD(行動・心理症状)」という周辺症状を発症することがあります。
BPSDが発症すると、徘徊、幻覚や妄想、暴言や暴力、うつなどの症状があらわれることがあります。一般的に、物を隠してしまう、物を盗られたと誤認する行動は、BPSDであることが多いのですが、それでも「本人にはしっかりとした理由(動機)」が存在しています。
認知症の方が隠してしまう物は、お金や薬、下着など様々です。例えば、お金や薬を隠してしまう場合、それは単に「大切な物を大事にしまっている」ということが理由かもしれません。また、汚れた下着を隠してしまうことがあれば、それは「恥ずかしい」という感情(羞恥心)が理由かもしれません。
これらは、認知症の方でなくても誰もが抱える感情です。
大切なのは、こうした行動に至った訴え(理由)にしっかり耳を傾け、適切に対応することです。この対応次第では、本人や家族のストレスは軽減され、お互いの「生活の質(QOL~Quality of life)」の向上にもつながります。いきなり行動を抑えつけるような対応は、かえって症状の悪化につながるため注意が必要です。
また、BPSDは人間関係や生活環境で生じるストレスの高まりで発症するため、誰もが発症するというわけではありません。
認知症の方が下着を隠す原因・理由と対応方法
認知症の方が「失禁」などで汚れた下着をタンスなどに隠してしまうことがあります。この行動は、認知症の症状が原因になっていることが多いのですが、同時に「羞恥心」や「失敗を隠したい」という、誰もが持つ普遍的な感情が理由(動機)になっていることも少なくありません。
このような状況に直面した際は、隠してしまうこと自体を注意するのではなく、隠してしまうきっかけとなった失禁に焦点を当てることが重要です。つまり、「できる限り、失禁を防ぐためにはどのような方法があるのか」を本人の立場になって考えて対応するということです。
例えば、トイレの場所を忘れがちな場合は、壁やドアに目印を付ける、またはトイレと書いた紙を貼るなどの工夫が効果的です。また、認知症の症状ではなく、身体的な原因で失禁が起きている可能性もあるため、「泌尿器科」での受診も検討しましょう。
このような対応を取ることで、認知症の方のプライドを守りながら解決に向けたサポートを行うことができます。
「物を盗まれた」と訴える原因・理由と対応方法(もの盗られ妄想)
認知症の方が、自分で隠した物を「人に盗られた」と勘違いすることは珍しくありません。この現象は、置いた場所を忘れるという記憶機能の障害とともにあらわれる妄想であり、「もの盗られ妄想」と呼ばれます。
このような症状があらわれた際には、「自分でどこかにしまったのに決まっている」と、頭ごなしに相手を否定するのではなく、本人が物を隠してしまう理由(動機)の理解に努め、一緒に探すことが大切です。
ただし、このようなケースでは、身近な家族や介護者が盗ったと疑い、興奮することも少なくはありません。そのような場合は、別の話をして気持ちを落ち着かせるなどの一時的な対応も心がけましょう。また、普段から本人が物を隠してしまう場所を把握しておくことでも、家族や介護者はより冷静な対応を取ることができます。
物が盗まれたとは限らず、「物がなくなった」と訴える場合も、同様の対応を心がけましょう。
物を隠したり、もの盗られ妄想などの認知症で困ったらここに連絡(相談先)
認知症と一言でいっても、「アルツハイマー型認知症」や「レビー小体型認知症」など、認知症のタイプによってBPSDの症状や対応も異なります。
そこで、物を隠してしまうような症状が出たり、症状が悪化した際には、ケアマネジャーなどの専門家や専門機関へ相談し適切な指導を受けましょう。正しい対応を早期に行うことは、認知症自体の進行を遅らせることや、症状の軽減に効果的で、さらには認知症の方だけではなく家族の「生活の質(QOL)」の向上にもつながります。
そこで、認知症全般に関する主な相談先を紹介します。
(1)一般的な医療機関(かかりつけの医療機関)
(2)認知症専門外来や全国もの忘れ外来
(3)地域包括支援センター
まずは、一般的な医療機関やかかりつけの医療機関を尋ねてみましょう。
また、場合によっては認知症専門外来や「全国もの忘れ外来」を利用します。もの忘れ外来では、物忘れが自然な老化によるものか、病的なものかを診断し適切な治療を行います。
地域包括支援センターでは、高齢者やその支援者に対して、総合相談、介護予防ケアマネジメント、権利擁護、包括的・継続的ケアマネジメント支援などの幅広いサービスを提供しています。
介護の問題、健康面の悩み、金銭的な問題、虐待など、様々な相談に対応しています。高齢者本人や家族が、どのような小さな心配ごとでも相談できるよう、様々な専門スタッフが配置されています。
地域包括支援センターは、各市区町村に設置され、利用はほとんどの自治体で無料です。自治体のホームページなどで担当するセンターの情報を確認しましょう。
認知症の予防や改善に大切なのはコミュニケーション
認知症の予防や進行の遅延、さらには認知症を持つ高齢者と家族との良好な関係づくりには、コミュニケーションが大切です。それには、認知症への家族の深い理解と、高齢者が多様な交流の中で新しい刺激を受け、興味や関心を持つことが大切です。
家族との対話や共有される活動を通じて、認知症の高齢者は新たな視点や情報を得る機会を得ます。これにより、認知的な刺激が促され、認知症の進行を遅らせる効果を期待することができます。また、こうした積極的な交流は、高齢者の「生活の質(QOL)」の向上にも効果的です。
さらに、デイサービスなどの外部施設を活用することも、認知症の高齢者の方には様々な刺激を受ける素晴らしいコミュニケーションの機会となります。このように、認知症の予防や改善には、家族の理解とサポート、多様な社会的交流の場が欠かせません。
まとめ
このコラムでは、認知症の方が物を隠してしまう、物を盗られたと誤解する行動への理解と、それに対する適切な対応を紹介してきました。認知症の程度によって症状は様々ですが、認知症の方に寄り添った正しい対応を心がけることは、本人の「生活の質(QOL)」の向上につながります。さらに、これは家族や介護者の介護負担軽減にも大きく寄与します。
症状が現れた場合は家族だけで悩まず、ケアマネジャーやその他の専門家、専門機関への相談も積極的に行いましょう。これにより、専門的な知識を得ることができ、適切なサポートを受けることができます。
また、介護者が日々の介護による強いストレスを感じている場合や自己嫌悪に陥っている場合、そしてどのように対応して良いか分からず悩んでいる場合には、「離れる介護」も検討しましょう。この場合、デイサービスやショートステイなど、自宅以外の施設の利用を検討します。介護福祉士や認知症ケア指導管理士がいる介護施設であれば、安心して介護をお願いすることができます。
このように、認知症の方とその家族にとって、認知症への適切な理解とサポートは必要不可欠です。ただし、介護には身体的・精神的負担がともなうことから、介護側の気持ちも不安定になることがあります。できるだけストレスを溜めない、困ったらすぐに相談するなど、自分が安心する環境をつくることも忘れないでください。
【監修】
新井
アズハイムでホーム長やエリア長等現場経験を経て、現在はホームの入居相談を担当。
介護は一人で抱え込まない。介護付きホーム(介護付有料老人ホーム)、デイサービス、ショートステイを提供するアズハイム。
多職種でしっかり対応してまいります。
<参考文献>
地域包括支援センターについて(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001088939.pdf
認知症に関する相談先(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000076236_00003.html
認知症に関する相談窓口
https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/dementia/a05.html